日本におけるキルトは1970年代にアメリカから入ってきました。その中でも75-76年に開催されたジョナサン・ホルスタインとゲイル・ファン・デ・ホッフによるアンティークキルトのコレクション展は当時の日本の女性に大きな影響を与え、これをきっかけに日本でもキルトブームが巻き起こりました。無名のアメリカ女性たちの手によって縫い合わされたベッド掛けがアートとして扱われ展示されたことは、裁縫や手芸が身近だった女性にはかなりの驚きと感動を与えたのではないでしょうか。その後ブームは少しずつ落ち着きを見せていきますが、キルト人気は一過性のものとして終わることなく、しっかりと日本の文化として定着し今日に至っています。
キルトはベッド掛けとも呼ばれるように、もともとは実用性に根差して作られたものでしたが、そこには様々なデザインが施され、アメリカの発展とともにキルトには女性たちの社会奉仕や社会へのメッセージも盛り込まれていきました。近代化の流れの中でキルト作りは下火になる時代もありましたが、日本にキルトが紹介されるきっかけとなった1960-70年代のキルトリバイバル以降、キルトはアメリカ、日本を問わず今日まで多くの人たちによって作り続けられています。キルトは時代を超えて受け継がれ、時代とともにその役割を変化させてきました。現代のキルトは過去の伝統的なキルトと違い、その多くはベッドに掛けるためではなく、表現の手段として作られています。歴史的には実用を目的としていたキルト作りが、今日では自己表現のためのキルト作りに変化してきているのです。
岡野栄子、小西春江、道正千晶、藤代郁子の4人は、いずれも日本のキルトの草創期となる70-80年代にキルトに出会い、キルトを作り始めました。そして彼女たちもまた、キルトに自身の表現を託し、これまでの人生をキルトとともに歩んできました。4人が制作するキルトの方向性はそれぞれ違いますが、キルトへの情熱、愛情、そして誇りを持って長年制作に打ち込んできた真摯な姿勢は、彼女たち全員に共通したものです。
「楽しくて嬉しいキルト創りをすること」をつねに心掛けている岡野栄子の作るキルトは、枠にとらわれない自由な発想とユーモアに溢れており、見る者の心を和ませます。さらに彼女のキルトからは、自身の表現にたいして自由で正直であろうとする潔さと気品が感じられます。小西春江は古い着物絹の素材を生かしつつ、キルトをいかに単純化、簡素化して表現できるかを追求しています。一見するとシンプルな彼女のキルトには、単純なデザインの繰り返しの奥に、着物絹の持つ美しさと古裂の持つ遠い記憶が宿っています。ファイバーアートや写真も手掛ける道正千晶は、素材の在りようを追求していくことで、キルトを全く新しい姿に変えています。どこか艶めかしさも感じさせる彼女の作品は、観る者に布への新鮮な驚きと興味を与えてくれます。着物絹を用いたキルトを独学で制作し続けた藤代郁子は、キルトの中に自由に自分の世界を描きました。彼女ほど自由にキルトを解釈し自分の表現に置き換えた作家はいないかもしれません。残念ながら彼女は2004年57歳の若さで亡くなってしまいましたが、彼女の残したキルトには今も彼女の描いた美しい世界が広がっています。
本展は彼女たち4人の代表作を通じて、それぞれが長年に渡り追及してきた4つの異なるキルトの世界を体験していただきます。彼女たちの生み出す美しくも個性溢れる布の世界は、きっと多くの人たちを魅了するはずです。彼女たちがかつてキルトに魅せられたように。
会 期
2019年9月7日(土)~ 10月20日(日) ※会期中無休
会 場
開 館 時 間
午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
主 催
公益財団法人 酒田市美術館
共 催
酒田市、酒田市教育委員会
企 画
有限会社 アルテ・クルー
観 覧 料
一般 900円(800円)
大学生・高校生 450円(400円)
中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金です。
※ 障がい者手帳をお持ちの方
・「身体障害者手帳」、または「療育手帳」及び「精神保健福祉手帳」をお持ちの方の入館料は、個人・団体を問わず半額になります。
・「身体障害者手帳」の1種、または「療育手帳」のAと認定されているお客様の場合、介護者の入館料は1人まで半額になります。
「山形のキルト作家三人展」植松章子(東根)/菅原真理子(酒田)/鈴木美知子(米沢)
展示期間:9月7日(土)~ 9月22日(日) ※最終日は午後3時まで
会 場:第1展示室
岡野栄子ワークショップ「ボタンを使って自分だけのブローチを作ろう!」
日時:10月6日(日)10:00~
対象:小学生以上の親子、一般
費用:800円(材料費込)
定員:10名
内容:ボタンを使ってブローチを制作
会場:美術館内
受付:9月8日午前9時より電話にて受付(美術館電話受付:0234-31-0095)
岡野栄子/小西春江/道正千晶 三作家によるギャラリートーク
日時:10月6日(日)14:00~
費用:無料(但し要会員券または観覧券)
会場:美術館内
ダリア・インフィオラータ ワークショップ「ダリアの花のじゅうたんを作ろう!」
インフィオラータは花のじゅうたんを意味しており、デザインに合わせて参加者が地面にたくさんの花びらを並べ、大きな絵を描くイベントです。キルトと花の関係は深く、花はキルトの図案の身近なモチーフとして、歴史的にも多く用いられてきました。今回展示する岡野栄子、藤代郁子の2名の作品の中にも、花をモチーフとした作品が多くあります。また、道正千晶の作品も直接的ではないですが、そのディテールの作りから花びらを起草される方は多いでしょう。今回のワークショップでは、酒田市在住のフラワーアーティスト・畠山秀樹氏が講師となり、美術館の庭を使って、展示作品をイメージしたダリア・インフィオラータを制作いたします。美術館の広い芝を生かしたインフィオラータはきっと美しく、多くの来館者に喜んでいただけることでしょう。
講師:畠山秀樹(フラワーアーティスト)
日時:9月21日(土)10:30~(約2時間を予定) ※雨天決行/※インフィオラータの展示は23日(月・祝)まで
会場:美術館前庭
対象:小学生以上(※小学生以下のお子様の参加には保護者の同伴が必要となります。)
費用:1,000円(参加記念品有)
定員:20名
受付:8月26日午前9時より電話にて受付(美術館電話受付:0234-31-0095)
協力:秋田国際ダリア園
過去のダリアインフィオラータの様子
畠山氏による今回のインフィオラータのイメージスケッチ
三作家によるギャラリートーク(植松章子/菅原真理子/鈴木美知子)
日時:9月15日(日)13:30~
費用:無料(但し要会員券または観覧券)
会場:美術館内
キルトに魅せられて
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